やまけん先生のお仕事いろいろ

(研究テーマ)


<運動習熟とダイナミックステレオタイプの再々考>
 身体運動は、多賀の指摘するように脳・神経系と身体系と外的環境系とが相互作用を行い、情報のトップダウンとボトムアップの反復により改善され、大変柔軟に対応しているように解釈できる。
 現在,刻々と変動するエネルギー生産系に適切に対応する「スキル・モード複合体」の独立が「ダイナミック・ステレオタイプ」の新モデルで,その相対的独立(エネルギー供給系も独立する?)が「運動習熟」の完成とみなす仮説を提示。つまりエネルギー供給系の変容が、運動経過の破綻を起こさないために動作系の変容を「生起させる」との仮説。
 従来の大脳皮質運動野(140億個のニューロン)での「動作のプロトタイプ」が小脳(600〜1000億個のニューロン)外側部での「補正」を受けるとのダイナミックステレオタイプ仮説に関わり、ではその瞬間的で連続的な補正を「どこが選択しているのか」が疑問だったが、どうやら「大脳基底核」が関わっている。
 大脳基底核はほとんどの回路を抑制し必要な回路だけを「脱抑制」するという強力な抑制・脱抑制機能を持っている。大学の研究室の先輩の木村實先生が大脳基底核が「報酬の予測誤差信号」に関わり「運動連鎖」を引き起こすこと、更に「報酬予測誤差ゼロ(TD)」が「ドーパミン作動性」で強化学習に関与することが指摘されている。「直感的な選択」に大脳基底核が関与していることは以前から指摘されていた(理研・田中啓治先生)ので、「運動野」「小脳」「大脳規定核」「視床」と「中脳からのドーパミン報酬系」が関連して「上手くいった行為 」を強化学習する(「巧みさ」を生起させる?)のではないかとの仮説が想定される。またデジタルハリウッド大学の藤井直敬先生の「予想脳(Predicting Brains)」や乾敏郎・阪口豊両先生のフリストンの「自由エネルギー原理(能動的推論)」にも関わって、運動習熟は結果を事前に予測して運動指令を変容させている(”信念の更新”と表現される:いわゆる”アフォーダンス”もこれと関連?)ことが考えられることと、リゾラッティらの「ミラーニューロン」の問題を含め現在再検討中。次の総説完了までしばらくお待ちください。

  


新スポ連附属スポーツ科学研究所通信第20号:
研究動向:トレーニングにおけるエネルギー供給系と運動習熟の「連関」を考える


<人類発生史から考える身体運動の一義性>
 「身体運動の一義性」の解明には、600万年の人類史的視点からのアプローチ、特にホモ・サピエンスの20万年史とその後の世界拡散での移動様式、狩猟採集や農耕・牧畜といった身体運動様式の解明が必須の要件と思われる。人類学の大御所・埴原和郎は、2000年に「人類の進化−試練と淘汰の道のり」を出版し、更に2004年に学術文庫版「人類の進化 〜20世紀の総括」として、2001年以降相次いだアフリカでの猿人化石の発見が従来の見解と異なる可能性を示唆し、また、ネアンデルタール人のミトコンドリアDNA解析などの自然人類学分野での研究が今後大きな意味を持つことにも言及している。
 2015年以降はそれまでの1万6千塩基のミトコンドリアDNA解析から、2001年の「ヒトゲノム計画」実現以降30億塩基を対象とた全ゲノム解析の手法が急速に進展した。2017年、古代DNA解析の第一人者、ハーバード大学のデイビット・ライクが「WHO WE ARE AND HOW WE GOT HERE(邦訳:交雑する人類、2018)」を出版し、この分野の急激な発展が紹介された。
 私も大学院時代からこの分野には関心が高く、解剖学や運動生理学の授業でも取り上げてきたが、この間のこの分野の急激な革新は今までのシナリオがまさに「ガラガラと音を立てて崩れる」ようなもので、改めて68歳にして日本人類学会に入会し「人類史研究」を開始することとした。
 現在の仮説的段階では「脳の大型化をともなう身体機能を形成し維持(発展は数100年のオーダー?)してきた身体運動の独自性」(論文1:研究ノート)ということで、どうやらミラーニューロンの関与する「狩猟活動の模倣」が非生産的身体運動を引き起こしたのでは・・との結論。共同通信社から書評を依頼された、英ケント大学のV.クリガン=リードの「サピエンス異変(2018年邦訳)」やA.ラザフォードの「ゲノムが語る人類全史(2017年邦訳)」は大変興味深い内容。


(お仕事)

<電子版です>
  新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長・やまけん先生のブログ(随時更新中)

<出版物など>


  1. 運動処方とトレーニング(In 「スポーツ・運動生理学概説」),明和出版(2011),pp.155-161
  2. 運動とスポーツ外傷・障害(In「健康教育大事典」),旬報社(2001), pp.270-271,その他「運動処方」「運動不足病」「運動欲求」「感覚」「姿勢制御」「心拍数」「随意運動の発達」「スポーツ障害」「体脂肪率」「体力」「体力づくり」「体力テスト」「ドーピング」「トレーニング」「能動汗腺」の項目を担当
  3. 教育技術MOOK:走・跳・投の遊び,陸上運動の指導と学習カード,小学館(1997),pp.1-144
  4. 子どものからだ−遊び・スポーツと生活時間−(In「新潟の子育て百科'96にいがたの子ども白書」),にいがた県民教育研究所(1996),pp.199-205
  5. スポーツ技術の研究は何に貢献するのか(In「スポーツ文化論:ルール・記録・技術」),創文企画(1993),pp.165-190
  6. 長距離走(In「中学校体育実践指導全集 4 陸上競技」),日本教育図書センター(1992),pp.101-110
  7. スポーツの認識と習熟(In「スポーツの自由と現代」),青木書店(1986),pp.299-313
  1. 科学の力で速くなる:ハイブリッド2時間走、ランナーズ 2013年4月号、pp.42-43
  2. 小学校・陸上運動ノート 第13版、授業資料(2016)
  3. フルマラソン チャレンジする前に知っておきたいランニングの生理学(In ランニングハンドブック Vol.32)、新日本スポーツ連盟全国ランニングセンター(2019)、pp.1-12
  4. やまけん先生の”スポーツ栄養学入門”、スポーツのひろば 2019年4・5月号、pp.12-15/12-15
  5. 筋肉はどうやって動くの?,スポーツのひろば No.451、2020年4月号,pp.10-15
  6. ランニングパフォーマンスを改善しよう((In ランニングハンドブック Vol.33)、新日本スポーツ連盟全国ランニングセンター(2020)、pp.2-14
  7. 「体幹トレーニング」とは?、スポーツのひろば2023年4月号(2023)、pp.12-16

<論文とか・・>


  1. 研究ノート:人類進化の視点から探るヒトの身体活動の独自性、スポーツ科学研究所年報 「現代スポーツ研究」 第7号(2023)、pp.52-59
  2. エネルギー供給系と運動習熟の「連関(Linkage)」、附属スポーツ科学研究所第16回シンポジウム/トレーニングのリアリティを探る 発表資料(2023)
  3. 陸上競技の身体運動(走・跳)の発生とそれを支えるメカニズムを考える、学校体育研究同志会全国大会提案集(2023)、pp.37-40
  4. 研究動向:トレーニングにおけるエネルギー供給系と運動習熟の「連関」を考える、新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所通信 第20号(2022)、pp.2-8、
  5. 東京五輪・パラリンピックの開催は私たちに何を残したのか〜1964年東京五輪・パラリンピックから57年目の「平和の祭典」が残したもの〜、平和運動 2021年11月号 、日本平和委員会、pp.18-25、
  6. ヒトの健康と身体活動・スポーツの意味するもの〜身体運動の一義性を考える〜、月間社会教育 2020年12月号、旬報社、pp.4-12
  7. 小学6年生のペースランニング授業時の負荷-心拍応答発表スライド)、ランニング学研究 Vol.32-2(2021)、pp.97-98
  8. エネルギー供給系と運動習熟の連関、第31回ランニング学会大会シンポジウム:ランニングパフォーマンスを決めるもの、座長提案資料(2019年3月 NSG学生総合プラザSTEP)
  9. 長距離ランニング中の疾走動作の変容は「適応制御」なのか?発表スライド)、ランニング学研究 Vol.30-1(2019)、pp.178-179
  10. 人類発生史から再考する身体と健康発表用スライド)、新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所第7回研究集会発表資料(2018年3月 東京)
  11. 長距離ランニング中の疾走動作の変容は何を意味するのか (発表スライド)、ランニング学研究 Vol.29-1(2017)、pp.77-79
  12. 子どもの発達をめぐって〜人類史的視点からのアプローチ〜、にいがたの教育情報 第123号(2017)、pp.16-24
  13. 我々は何故「科学的根拠」にこだわってきたのか、たのしい体育・スポーツ No.301(2016)、pp.28-31
  14. スポーツ科学研究の「これまで」と「これから」、新潟体育学研究 第34巻(2016)、pp.115-117
  15. 運動習熟とダイナミックステレオタイプの再考、新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所第3回研究会発表資料(2016年3月23日 武蔵野美術大学新宿サテライト)
  16. 運動習熟とダイナミックステレオタイプの再考−エネルギー供給系と運動習熟の連関−、陸上競技研究 第103号(2015)、pp.2-11
  17. 2020東京オリンピック・パラリンピックに向けて〜スポーツ科学研究とアスリート・サポートのあり方を検討する〜、新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所第1回シンポジウム提案資料(2015年3月28日 日本青年館)
  18. 陸上運動/陸上競技のエッセンシャルズを求めて、学校体育研究同志会全国大会提案集(2015),pp.174-177
  19. 長距離ランニング中の動作変容に関わるモデルの検討、H24-26 学術研究助成基金報告書(2015),pp.1-16
  20. 運動生理学の研究から見えてくる身体運動システムの複雑さ、スポーツ社会学研究 第23巻1号(2015),pp.35-46
  21. 10000mレース後半に見られた疾走動作の変容 (発表スライド)、ランニング学研究 Vo.27-1(2015):pp.66-67
  22. 10000mレース中のランニング動作変容に関するモデルの検討 (発表スライド)、ランニング学研究 Vol.26-1(2015),pp.78-79
  23. 陸上競技の記録は何によってきまってきたのか、たのしい体育・スポーツ No.283(2014)、pp.24-29
  24. 時よとまれ、君は美しい,たのしい体育・スポーツ No.276(2013),pp12-15
  25. 長距離ランニング中のエネルギー供給系とスキル系の連関モデルの検討,第21回日本運動生理学会大会発表資料(2013年7月 東京国際大学)
  26. 人間の可能性 〜パラリンピックとスポーツ科学,たのしい体育・スポーツ No.270(2013),pp.26-29
  27. 「健康づくり」「身体づくり」「体力づくり」−保健体育科の「エビデンス」はなにか?−,たのしい体育・スポーツ No.264(2012),pp.28-31
  28. エネルギー供給系と運動習熟の連関,現代スポーツ研究会年報「現代スポーツ研究」 第12号(2011), pp.54-60
  29. ランンニングパフォーマンスを決定するマトリクスモデルの検討,ランニング学研究 Vol.23-1(2011),pp.55-56
  30. 同一運動強度とみなされるランニング実施中の瞬時心拍変動,ランニング学研究 Vol.22-1(2010),pp.60-62
  31. 競技スポーツの科学的研究とサポート体制,現代スポーツ研究会第58回研究会発表資料(2010年3月武蔵野美大新宿サテライト)
  32. 漸増漸減型自転車エルゴメーター負荷への瞬時心拍応答,新潟大学教育人間科学部紀要・自然科学編 Vol.10-2(2008),pp.83-91
  33. トレー ニングは「何を」トレーニングするのか?,現代スポーツ研究会年報「現代スポーツ研究」 第8号(2007),pp.2-5
  34. 陸上競技のサイエンス,体育科教育 Vol.55-6(2007), pp.28-31
  35. 反復される漸増漸減型自転車エルゴメーター負荷への心拍応答,新潟大学教育人間科学部紀要・自然科学編 Vol.9-2(2007), pp.55-62
  36. 運動生理学からみた咬筋活動とスポーツ動作,平成18年度東海・信越地区歯科医師会役員連絡協議会特別講演(2006年10月:新潟市)
  37. 長距離ランニング中のペース変化に先行する瞬時心拍変動,ランニング学研究 Vol.18-2(2006),pp.92-94
  38. 運動時の自律神経と情動反応,平成15-17年度科学研究費報告書「感性教育のためのリズミカルムーブメント・プログラム」(2006)
  39. 運動習熟とダイナミック・ステレオタイプの再考,現代スポーツ研究会第50回研究会発表資料(2006年3月: 愛知県立大学)
  40. 長距離ランニング中のペース変化と瞬時心拍変動,新潟大学教育人間科学部紀要・自然科学編 Vol.8-2(2006),pp.109-123
  41. 体力ってなあに?,たのしい体育スポーツ No.189 (2006 ),pp.20 -23
  42. 巧みに動く身体(からだ),たのしい体育スポーツ No.179 (2005 ),pp.28-29
  43. 瞬時心拍変動による運動経過の記録,新潟大学教育人間科 学部紀要・自然科学編 Vol.7-2(2005),pp.157-167
  44. 技術の習得過程を考え直す,たのしい体育スポー ツ No.175(2005),pp.8-11
  45. トレーニングのリアリティを探る,現代スポーツ研究会ワークショップ資料(2004年9月:奈良女子大学)
  46. “スポーツ動作を知ろう”“走りのメカニズム”,スポーツのひろば No.369(2004), pp.16-19, pp.22-25
  47. 身体運動研究の動向〜アフォーダンスと運動の自己組織化〜,運動文化研究 Vol.22(2004),pp.1-4
  48. 「運動科学」は「分析主義」への反論かそれとも「経験主義」への反論か,現代スポーツ研究会発表資料(2004年3月:浜松短期大学)
  49. 新潟の子どもたちの生活の変化とスポーツ活動,にいがたの教育情報第74巻(2003),pp.28-33
  50. 生理学的側面から見た「こころ」と「からだ」,平成12-14年度科学研究費報告書「心と体の統合をめざした体育プログラムと実践的な評価方法の開発」(2003)
  51. 走運動の発生に関する若干の理論的考察,現代スポーツ研究会発表資料(2003年3月:武蔵野美術大学)
  52. 心拍数とサーモグラフィーによる運動経過の記録,新潟大学教育人間科学部紀要・自然科学編 Vol.5-2(2003),pp.35-41
  53. 移動運動の発達‐その系統発生と個体発生‐,たのしい体育・スポーツNo.147(2002),pp.8-11
  54. 用具の変化と競技スポーツのあり方,スポーツのひろば No.342(2002),pp.18-20
  55. 一過性のドリルによるスプリントパフォーマンスの変容,日本陸上競技連盟:陸上競技紀要,Vol.15(2002), pp.21-29
  56. 記録更新とドーピング−何がアンフェアなのか−,たのしい体育・スポーツNo.127(2001),pp.30-33
  57. 子どもの生活時間帯の調査(第2報),新潟体育学研究Vol.17(1999),pp.8-11
  58. 子どもの生活時間帯の調査,新潟体育学研究 Vol.16(1998),pp.15-18
  59. トレーニングによる小学生の疾走動作の変容,日本陸上競技連盟:陸上競技紀要 Vol.11(1998),pp.44-51
  60. 子どもの生活時間の現状−子どもの生活習慣の形成にはどこが責任を持つべきか−,学校体育(1997),pp.46-47
  61. ドーピングとスポーツトレーニング,現代スポーツ研究会年報Vol.2(1996),pp.13-16
  62. 競技力とスポーツらしさ,現代スポーツ研究会年報 Vol.1(1995),pp.8-12
  63. ペースランニングの科学,たのしい体育・スポーツ Vol.48(1995),pp.13-17
  64. 新潟市にお ける児童生徒の骨折状況とその要因,新潟体育学研究 Vol.11(1993),pp.8-13
  65. ランニングスキルの改善と歩数計測の意義,ランニング学研究 Vol.4-1(1993),pp.14-19
  66. 選択反応時間における事前準備の影響,新潟大学教育学部紀要 Vol.31-1(1989),pp.43-51
  67. 運動のできないメカニズムを探る,新潟体育学研究Vol.7(1988),pp.42-45
  68. 人間の随意運動における2つの成分について,新潟大学教育学部紀要 Vol.24-2(1983),pp.581-590


所属学会・社会的活動など


日本運動生理学会(評議員)/日本体育スポーツ健康学会(名誉会員)/日本体力医学会/日本人類学会/ランニング学会/日本臨床スポーツ医学会/日本発育発達学会/日本陸上競技学会/日本スポーツパフォーマンス学会/子どものからだと心・全国連絡会議/学校体育研究同志会(新潟支部長)

学術研究助成基金(代表者分)
(1)長距離ランニング中の動作変容に関わるモデルの検討(2012-2014年度)
(2)長距離ランニング中のエネルギー供給系とスキル系の連関モデルの検討(2015-2017年度)


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