回顧2012




 回顧2012だが、その前に。解雇2012…これはなかった。蚕2012…これはあった。
 今年は充電の年のはずだったが、映画は例年並、本もろくに読めなかった。充電ではなく休憩の年か。
 でも来年は書く。

「月光ノ仮面」はラストで本当のタイトルが判る。クライマックスには強烈なメッセージがあり、気に入ったが、そこに至るまでが酷い。

 原発が気になるのはこの世を謳歌する権力者・金持ち・中産階級だけで、貧乏人は本当はそんなもの気にしない、という考えは間違いだ。将来にわたって既得権益を貪り続けるお前らのためにわざわざ言ってやってんだよ、目先のことしか考えない、想像力皆無なお前らのためにな、未来も明日もないおれたち貧乏人が、本当はこんなクソみてえな国、放射能まみれがお似合いなんだよ、などと思っているわけでは決してない。原発事故で最大のダメージを被ったのは農民ではなく詩人だ、と「ヒミズ」を見て思った。「希望の国」は見ていないが、原発事故によって撒き散らされる放射能や100%安全稼働によって日夜生み出される高濃度放射性廃棄物に反対する権利は、経済的格差によらず、誰にでもある。

 はやぶさ映画3本のうち、監督でこれを選んだ。面白かった。舞台となったJAXAは地元にある。劇中、送っていこうかという申し出を断って渡辺謙が歩いて向かう先はJR横浜線の淵野辺駅だ。淵野辺はかつては何もない駅、街だったが、はやぶさ以来、駅前商店街ははやぶさ一色だ。はやぶさパン、はやぶさコロッケ、はやぶさカクテル、イトカワまんじゅう、etc。小学生の頃はいまJAXAのあるキャンプ淵野辺はまだ解放されてなく、有刺鉄線の向こう側には進駐軍の時代からの建物がそのまま腐れ朽ちて残っていた。ぼくたち子供らはそこにもぐりこんで探検したものだった。また、三田のNEC本社ビルにもよく仕事で訪れた(1階に森永のあるビル)。テストしてないのにエンジンの回路を切り替えることに反対する技術者の姿がリアル。

「僕達急行」は趣味が仕事を助けるみたいな発想がなければもっと上位に入った。

「ジョン・カーター」を見ればスターウォーズをディズニーに任せてもいいかと思わされる。

「SR」はだいぶ前の映画だが、今年初めて見た。国道17号にやられた。冒頭のタイトルバックのところは何度も繰り返し見た。昔、かっきり一年間、東松山に住んでたことがあり、R254、R17をよく走った。晩秋から冬にかけてはとりわけ胸に沁みる風景だ。孤独を愛する人はここをドライブするといい。孤独、郷愁、メランコリアにより深く浸ることができる。ボロボロの中古の軽に乗っていたが、狭い車内は暖房がよく効いて何とも言えないいい心地なのだ。

「ダークナイト」前作のキャッチコピーは誰も見たことがないというものだったような気がするが、今作は既視感があった。

「凍れる太陽」はものすごい映画だ。10には入れないが凄い。ベストテンなんかどうでもいい。

 いわゆる神はいない。人類の進化に影響を与えた異星人にしても、冒頭のDNAの破壊と再生からして自然の流れに身を任せているわけだし。2000年間だか眠り続けていた宇宙船の乗組員が話しかけられただけでいきなりブチギレして大暴れしたとしても不思議ではない。冒頭の人身御供となる男にしても乗組員にしても、本国では兵隊、宗教のヒエラルキーでは最末端にいる鉄砲玉だろう。洗脳されて辺境に送り込まれた実行部隊だ。本国というか母星にはきっと抑制された性格の頭脳がいるには違いない。地球から随分遠い星で繰り広げられるにしては、行動範囲が着陸地点と異星人の宇宙船が隠された洞穴とを往復するだけというのはセコすぎないかという非難も当たらない。マーズ・グローバル・サーベイヤーは1m格子で火星の地表をサーチしたが、それから約1世紀先の宇宙計画で目的地をあらかじめピンポイントで絞っておくことに違和感はない。「プロメテウス」はリドリー・スコットが久々に撮るSFということで久しぶりに見る前から興奮していたが(そういう映画は滅多にない)、それを決して裏切ることはなかった。宇宙空間を進む宇宙船とか宇宙船の日常風景とか何気ないシーンのビジュアルがすばらしい。もちろん血まみれの帝王切開とか美しいプラネタリウムとかIMAX3D向けの描写も用意され堪能できる。

「アウトレイジ ビヨンド」はタイトルの出し方からも明らかなように奇を衒わず正攻法を志した映画だった(ビヨン度は低い)。「アウトレイジ」は北野監督が何かに目覚めた記念碑的な作品だったと思う。個人的にはこの路線で進んでもらいたい。

「鍵泥棒」の広末涼子は「まさお君」と同じような役どころだった。これが現在のヒロスエ像ということか。

「北のカナリア」はまずイベントがあり、あとで説明していく話術だが、マルチアングルで撮られたパズルがはまっていく快感を楽しんだ。この原作者の小説は読んだことないが、「贖罪」にしても「告白」にしても面白く、ぼくにとってはS・キングのような位置づけの作家になりそうだ。S・キングの小説もこれまで一冊も、いや、一篇たりと、いや、もしかすると一行も読んだことがない。本を手にした記憶がないから。しかしその映画化作品は「キャリー」にしても「グリーンマイル」にしても「ミスト」にしても、およそ見ていないものはないというぐらい見ている。何も自慢することじゃないが。素直に読んでいたら今頃は作家的地位だって確立できていたかもしれない。でも読めないんだ。

「悪の経典」はストーリー的にはどうということないサイコパスによる殺戮ものだが、細部の演出が光った。配役が園子温監督作とダブっているのが目立ったが、年末の映画特番でこれは対抗心ではなくオマージュであることがわかった。両者は互いに尊敬しあっている。伊藤英明は前に「カムイ外伝」でも善人ヅラした悪党を演じており、また「海猿」を見たことはないのでその配役に意外性はなかった。はまり役だ。

「あなたへ」は「鉄道員」を見ていなかったら見なかったかもしれない。「鉄道員」は今年初めて見たのだが、ものすごく面白かった。これは、テネシーワルツが確信犯的に使われて、降旗康男監督が勝手に撮った高倉健の私小説といってもいいぐらいだ。「あなたへ」もその延長線上にある映画だが、ビヨン度が高い。これと並行して描かれる小さな奇跡を、ラストで「岸辺のふたり」に使われた曲が保証するのだが、それに気づいてしまったのが個人的に惜しまれる(知らなければもっと感動した)。高倉健が最後は一メッセンジャーとなる扱いに、歩きだす横顔、あるいはカメラワークに、そして何か(ネタバレ禁止)が浮かび上がるところに撃たれる。

「その夜の侍」は妻を殺した男との対決に向かって、随所に笑いを差し挟みながらも(ユーモアとかではなくマジで笑える)、緊張を高めながら刻々と進んでいく話だが、クライマックスの対決シーンで爆笑させられるとは思わなかった。山田孝之の演じる男は誇張されているが、でもみんなあんなもんですよ。話は飛ぶか脱線しますが、共産党がダメなのは人間の本性が怠け者だということを認識していないことだろう。ぐうたらな人間を愛することができるか、そこに未来がかかっているような気がする。

「ロック・オブ・エイジズ」も「レ・ミゼラブル」もその絶唱を楽しんだ。「レ・ミゼラブル」ってよく知らなかったけど、フランス革命の後で王政復古が行われた時代を背景にしていた。だから民衆は改めて武装蜂起した学生の隊列には加わらず、革命は潰える。結果的に太宰治とかビン・ラディンのような、革命に身を投じた大金持ちのボンボンだけが生き残り、多くは死ぬ。十年後に振り返ったとき、いや、一週間後に振り返ったとき、やはり生きてたほうがいいな、貧乏でも、と思わせるところから、いま、決して革命の狼煙が上がらない理由だと思う。ニューヨークにはまだ99%たちがテントで頑張っているのだろうか?せっかく通販とかホームセンターとかで手軽に自動小銃が買えるのだから、寒い思いをしていないで武装蜂起し、リーマンで儲けた連中を皆殺しにすればいいと思うが、やはりそういう事情があるのだろう。「レ」ではサッシャ・バロン・コーエンとティム・バートンの奥さんの娘が死ぬところで一度だけ落涙しそうになったが、それはこの映画ではなく別の「スエズ」という映画のことを思い出したからだ。不思議なぐらいこの映画では喉の奥が熱くならなかった。決して面白くなかったわけではないが。アン・ハサウェイを始めとする歌声にカタルシスを覚えたし、ラッセル・クロウの歌声さえも楽しんだ。「スエズ」では主人公を救って女が命を落とすが、それは人間のパーソナリティではなくむしろ動物のキャラクターだろう。最後の最後に動物に救われる映画ぐらい感動するものはないから。「アバター」もそうだった。そんなわけで、迷った末に(妖怪人間ベムにするかこっちにするか)「ホビット」を今年最後を締めくくる映画に選んだが、正解だった。「ロード・オブ・ザ・リング」よりも面白かった。それは原作の要素ではなく監督の腕が上がったからだろう。




 






2012候補作およびベストテン発表!



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