回顧2007

 今年は前3/4は最悪だったが、後1/4はなかなかよかった。
 しかしそれは私事で、映画はつねに豊穣だった。とくに名前を記しておきたいのは、キム・キドク、ミヒャエル・ハネケ、そして増村保造だ。ハネケは風貌が宮崎駿に似ている。ハネケは「タイム・オブ・ザ・ウルフ」で馬を殺し、「ベニーズ・ビデオ」で豚を殺し、「隠された記憶」で鶏を殺した。この監督の映画にはエンドロールで‘実際には動物を傷つけていません’という断り書きは流れない。でも今年見たハネケのどの作品も「ファニーゲーム」のときの衝撃はなかった。あれは人間を殺していたから。「コード・アンノウン」のサンバは、黒沢清の「大いなる幻影」に触発されたものなのか、偶然の一致なのか分からないが、禍々しさの効果は上回っている。 また、「ALWAYS 続・三丁目の夕日」は前作を上回る感動作だった(前作は「続」が公開される前日にテレビで見た)。その理由の半分は、ぼくが芥川賞を受賞していないからだ。シナリオが抜群によかった。この映画はある種の「スターウォーズ」だ。特撮がこのストレートなドラマを支えている。もちろん、ドラマと特撮は不可分の関係だ。原作のマンガも読んでみたが、その仕組みは一緒だった。あのストーリーを成立させているのはあの独特の絵があるからだ。作曲賞もこの映画のサントラを担当した佐藤直紀さんに授与する。また外国語映画の作曲賞は「ハリーポッターと不死鳥の騎士団」を担当したニコラス・フーパーに授与する。ついにジョン・ウィリアムスの旋律から自由になりつつ、それに匹敵する納得のいくスコアを書ける作曲家が現れたという気がする。
 小説はマルケスの「コレラの時代の愛」、そしてトーマス・ベルンハルトの日本語で読める全作品が面白かった。



2007年の映画BEST10

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